【大阪・関西万博】「EXPOホンヤク™」ってどんなサービス?翻訳対応言語と使い方ガイド

「EXPOホンヤク™」の画像 2025【大阪・関西万博】
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2025年大阪・関西万博 公式多言語翻訳サービス「EXPOホンヤク™」の使い方ガイド(ステップバイステップ解説)

「EXPOホンヤク™」ってどんなサービス?

「EXPOホンヤク™」とは、大阪・関西万博で提供される公式の多言語翻訳サービスです。日本語を含む31言語に対応し、スマートフォンや専用端末を使ってリアルタイムで音声・テキスト・カメラ翻訳ができます。来場者や出展者、ボランティアが言語の壁を越えてスムーズにコミュニケーションできるようサポートしており、基本的に無料で利用可能です。

2025年大阪・関西万博では、世界中から多くの人が訪れます。言葉が通じなくても、この「EXPOホンヤク™」アプリがあれば、スマートフォンを使って簡単に会話ができます。ここでは、特にシニアの方向けに、アプリの基本的な使い方を順を追ってご説明します。

使い方画像

ステップ1:アプリを探してスマートフォンに入れる

  1. 準備するもの: スマートフォンが必要です。iPhone(アイフォーン)でもAndroid(アンドロイド)のスマートフォンでも大丈夫です。
  2. アプリを探す:
    • iPhoneの場合は、「App Store」(アップストア)というアイコンを探して開きます。
    • Androidの場合は、「Google Playストア」(グーグルプレイストア)というアイコンを探して開きます。
  3. 検索する: ストアが開いたら、上部にある検索窓(虫眼鏡のマークがあることが多いです)に「EXPOホンヤク」または「エキスポホンヤク」と入力して検索します。
  4. 見つける: 検索結果に「EXPOホンヤク™」という名前のアプリが表示されます。
  5. インストールする: アプリの横にある「入手」や「インストール」というボタンを押します。このアプリは無料で利用できますので、安心してお使いください。インストールが終わるまで少し待ちます。

ステップ2:アプリを開いて、基本画面を確認する

  1. アプリを開く: スマートフォンの画面に「EXPOホンヤク™」の新しいアイコンができているはずです。それを指でポンと押してアプリを開きます。
  2. 画面を見る: アプリが開くと、画面には主に、話す言葉を選ぶ場所、翻訳結果が表示される場所、マイクの絵のボタン、文字を入力する場所などが見えるはずです。

ステップ3:話す言葉を選ぶ

  1. 自分の言葉を選ぶ: 画面で「あなたの言語」やそれに似た表示を探し、自分が話す言葉(例:「日本語」)を選びます。
  2. 相手の言葉を選ぶ: 次に、「相手の言語」やそれに似た表示を探し、会話したい相手が話す言葉(例:「英語」や「中国語」など)を選びます。たくさんの言葉に対応していますが、まずはよく使いそうな言葉を選んでみましょう。

ステップ4:声で翻訳する(対応している言葉の場合)

このアプリでは、日本語や英語など13の言葉で声による翻訳が可能です。

  1. マイクボタンを押す: 画面にあるマイクの絵のボタンを指で押します。
  2. 話す: スマートフォンのマイク(通常は本体の下部にあります)に向かって、はっきりと話しかけます。
  3. 翻訳を待つ: 話し終わると、アプリが自動で相手の言葉に翻訳してくれます。翻訳された言葉が画面に文字で表示され、場合によっては音声で読み上げられます。少し待ってください。

ステップ5:文字で翻訳する

声での翻訳に対応していない言葉も含め、30の言葉で文字による翻訳が可能です。

  1. 文字入力場所を押す: 画面にある文字を入力するための箱(テキストボックス)を指で押します。
  2. 文字を入力する: スマートフォンのキーボード(文字盤)が表示されるので、翻訳したい言葉や文章を入力します。
  3. 翻訳を見る: 入力が終わると、相手の言葉に翻訳された結果が画面の別の場所に表示されます。

簡単なヒント

  • ゆっくり、はっきりと話す: 声で翻訳する際は、焦らず、一語一語はっきりと話すと、アプリが聞き取りやすくなります。
  • 短い文で: 長い文章よりも、短く簡単な文で話す方が、正確に翻訳されやすいです。
  • インターネット接続を確認する: このアプリを使うには、基本的にインターネット接続(会場のWi-Fiやスマートフォンのモバイル通信)が必要です。オフライン(インターネットがない状態)での利用は現時点では確認されていません。
  • バッテリーに注意: アプリを使うとスマートフォンの電池を消費します。万博会場へ行く際は、携帯用の充電器(モバイルバッテリー)があると安心です。
  • 困ったときは: 操作が難しい場合や、視覚的な確認が難しい場合は、会場のスタッフや周りの人にサポートをお願いすることも検討しましょう。

このガイドを参考に、「EXPOホンヤク™」を使って、万博でのコミュニケーションを楽しんでください。

 

2025年大阪・関西万博 公式多言語翻訳サービス「EXPOホンヤク™」に関する調査分析レポート

「EXPOホンヤク™」の画像

1. エグゼクティブサマリー

本レポートは、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で導入される公式多言語翻訳サービス「EXPOホンヤク™」について、その概要、技術基盤、戦略的重要性、潜在的な影響と課題を包括的に分析するものである。

「EXPOホンヤク™」は、TOPPANホールディングス株式会社が開発・提供する無料のスマートフォンアプリケーションであり、大阪・関西万博の全来場者および運営スタッフが利用可能である。本サービスの中核技術は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した国産のニューラル機械翻訳エンジンであり、特に日本語との翻訳精度に強みを持つとされている。

主要機能として、日本語を含む30言語に対応し、うち13言語では音声入出力を含む双方向翻訳が可能、残りの17言語ではテキスト翻訳を提供する。また、万博会場の固有名称など約1,200語の専門用語を搭載し、会場内でのコミュニケーション精度向上を図っている。さらに、約7,000人の会場スタッフ向けには、定型文応答機能や会場マップ表示など、業務効率化を図る専用機能が提供される。

「EXPOホンヤク™」は、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」、特にサブテーマ「いのちをつなぐ」を具現化し、多様な来場者間の言語障壁を低減することで、来場者体験の向上、国際交流の促進に貢献することが期待される。また、「デジタル万博」の一環として、日本の先進的な翻訳技術を世界に示すショーケースとしての役割も担う。

一方で、潜在的な課題も存在する。特に、大規模イベント特有のネットワーク混雑下での安定性、翻訳精度(特に文化的ニュアンスや複雑な表現)、確認されていないオフライン機能の有無、多様なユーザーのITリテラシーへの対応、限定的なアクセシビリティ機能などが挙げられる。

結論として、「EXPOホンヤク™」は、万博の成功に不可欠なコミュニケーションインフラであり、日本の技術力を示す重要な要素である。その効果を最大化するためには、技術的安定性の確保と、ユーザーサポート体制の充実が鍵となる。本プロジェクトから得られる知見は、今後の大規模イベントにおける多言語対応ソリューション開発に貴重な示唆を与えるだろう。

2. 導入:2025年大阪・関西万博と多言語コミュニケーションの重要性

2.1. 2025年大阪・関西万博の概要

2025年日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博、Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan)は、2025年4月13日から10月13日までの184日間、大阪府大阪市此花区の夢洲(ゆめしま)地区で開催される国際博覧会(登録博覧会)である。

  • テーマ: 「いのち輝く未来社会のデザイン (Designing Future Society for Our Lives)」
  • サブテーマ: 「いのちを救う (Saving Lives)」、「いのちに力を与える (Empowering Lives)」、「いのちをつなぐ (Connecting Lives)」
  • コンセプト: 「未来社会の実験場 (People’s Living Lab)」
  • 想定来場者数: 約2,820万人。このうち、海外からの来場者は約350万人(全体の約12%)と見込まれている。

150を超える国・地域・国際機関の参加が見込まれ、極めて多様な言語的・文化的背景を持つ人々が一堂に会する大規模国際イベントとなる。開幕後の初期の来場者数データも高い関心を示唆している。

2.2. 大規模国際イベントにおける多言語コミュニケーションの課題

大阪・関西万博のような大規模国際イベントでは、世界中から多様な言語を話す人々が集まるため、円滑なコミュニケーションの確保が極めて重要となる。言語の壁は、以下のような多岐にわたる課題を引き起こす可能性がある。

  • 来場者体験の低下: 情報アクセス(案内、展示内容の理解、イベント情報など)の制限、スタッフや他の来場者との交流機会の損失、会場内での移動や購買活動における不便さなどが、満足度の低下に直結する。観光庁の調査でも、訪日外国人旅行者が困ったこととして「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」が最も多く挙げられている。
  • 安全確保の阻害: 緊急時の避難誘導、注意喚起、健康に関する情報伝達などが正確かつ迅速に行えない場合、来場者の安全にリスクが生じる。
  • 経済的機会の損失: 言語の壁により、展示や商品、サービスへの関心が薄れたり、購買意欲が削がれたりする可能性がある。
  • 国際交流の阻害: イベントの目的の一つである国際的な相互理解や文化交流が、言語障壁によって妨げられる可能性がある。

これらの課題に対応するため、標識や案内表示の多言語化、多言語対応可能なスタッフの配置、そして近年では翻訳技術の活用が不可欠となっている。

2.3. 「EXPOホンヤク™」の位置づけと目的

このような背景のもと、大阪・関西万博の公式多言語翻訳サービスとして「EXPOホンヤク™」が開発・導入された。「EXPOホンヤク™」は、単なる利便性向上のためのツールではなく、万博の成功とテーマ実現において重要な役割を担うものとして位置づけられている。

  • 公式サービスとしての目的: 万博会場内における言語障壁を可能な限り低減し、全ての来場者(国内外問わず)および運営スタッフ間の円滑なコミュニケーションを支援すること。これにより、来場者体験の向上、安全確保、国際交流の促進を目指す。
  • 万博テーマとの関連: 特にサブテーマである「いのちをつなぐ (Connecting Lives)」を具現化する主要な施策の一つである。言葉の壁を越えた交流を可能にすることで、多様な人々が共生し、協力し合う未来社会の姿を示すことを意図している。
  • 「デジタル万博」構想の一部: 「EXPOホンヤク™」は、「未来社会ショーケース事業」の中の「デジタル万博・自動翻訳システム」の中核を成す要素である。これは、万博会場を「未来社会の実験場 (People’s Living Lab)」とし、最先端のICT(情報通信技術)を実装・実証する取り組みの一環であり、日本の技術力をアピールする狙いも含まれる。

このように、「EXPOホンヤク™」は、万博の運営基盤を支える実用的なツールであると同時に、万博が掲げる理念と未来像を体現する象徴的なプロジェクトとしての意味合いも持っている。その提供は、イベントの円滑な運営だけでなく、万博全体の価値を高める上で不可欠な要素と判断された結果であると言える。

3. 「EXPOホンヤク™」サービス概要

3.1. 正式名称と開発主体

  • 正式名称: EXPOホンヤク™ (エキスポホンヤク)
  • 開発主体: TOPPANホールディングス株式会社。同社は、大阪・関西万博の「未来社会ショーケース事業」における「デジタル万博・自動翻訳システム」の協賛企業として、本アプリを開発・提供している。
  • 技術協力: 中核となる翻訳エンジン技術は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)によって開発されたものが活用されている。

3.2. 開発経緯とコンセプト

「EXPOホンヤク™」の開発は、TOPPANグループがこれまで培ってきた音声翻訳サービス(例:「VoiceBiz®」シリーズ)におけるユーザーインターフェース(UI)設計のノウハウと、NICTが開発した国産翻訳エンジンの技術力を融合させる形で進められた。

開発の背景には、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」への共感と、TOPPANグループ自身のパーパス「人を想う感性と心に響く技術で、多様な文化が息づく世界に。」の実現がある。万博というグローバルな舞台で、言語の壁を取り払い、多様な文化背景を持つ人々が円滑にコミュニケーションを取り、相互理解を深めることができる環境を提供することを目指している。

コンセプトとしては、単なる翻訳ツールに留まらず、万博会場を「言葉の壁のない未来のコミュニケーション環境」のショーケースとすること、そして来場者一人ひとりが「グローバルな交流を思いのままに体験できる環境」を創出することに重点が置かれている。

3.3. サービス提供期間と対象エリア

  • 提供期間: アプリのサービス提供は、大阪・関西万博の会期に合わせて設定されており、2025年1月29日からダウンロード可能となり、会期終了日の2025年10月13日をもってサービスを終了する予定である。
  • 対象エリア: 主な利用想定エリアは大阪・関西万博の会場内である。会場固有の専門用語の搭載や、会場マップ機能の提供など、会場での利用を前提とした機能が実装されている。ただし、技術的にはインターネット接続があれば会場外でも利用可能と考えられる。

この公的かつ期間限定のサービス提供モデルは、特定のイベントニーズに特化したソリューション開発の一例と言える。TOPPANとNICTという、民間企業の開発力と国の研究機関の技術力を組み合わせることで、万博という国家的プロジェクトに対応した高度なサービスを実現している点が特徴的である。

4. 技術仕様と機能詳細

ポイント画像

EXPOホンヤク™」は、大阪・関西万博特有のニーズに応えるために設計された多言語翻訳サービスであり、その技術基盤と機能にはいくつかの特徴が見られる。

4.1. 対応言語

  • 総言語数: 日本語を含む合計30言語に対応している。
  • 機能別対応:
    • 音声翻訳・テキスト翻訳(音声出力可): 13言語。具体的には、日本語、英語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語、ブラジルポルトガル語、ミャンマー語、スペイン語、フランス語、フィリピン語。
    • テキスト翻訳のみ(音声出力不可): 17言語。日本語から/への翻訳として、アラビア語、イタリア語、ウルドゥ語、オランダ語、クメール語、シンハラ語、デンマーク語、ドイツ語、トルコ語、ネパール語、ハンガリー語、ヒンディー語、ポルトガル語、マレー語、モンゴル語、ラーオ語、ロシア語。
  • 言語選定理由: 明確な選定理由は提供された資料には記載されていないが、想定される来場者の国籍構成(特に東アジアからの来訪者が多いという予測)や、世界的に利用者の多い主要言語、そして技術的な実装の容易さや翻訳エンジンの対応状況などが考慮された可能性が高い。30言語という対応数は、多様な来場者層をカバーしようとする意欲を示すものである。

表1:EXPOホンヤク™ 対応言語と機能

言語名音声入力/出力対応テキスト翻訳対応
日本語
英語
中国語(簡体字)
中国語(繁体字)
韓国語
インドネシア語
タイ語
ベトナム語
ブラジルポルトガル語
ミャンマー語
スペイン語
フランス語
フィリピン語
アラビア語×
イタリア語×
ウルドゥ語×
オランダ語×
クメール語×
シンハラ語×
デンマーク語×
ドイツ語×
トルコ語×
ネパール語×
ハンガリー語×
ヒンディー語×
ポルトガル語×
マレー語×
モンゴル語×
ラーオ語×
ロシア語×

4.2. 翻訳エンジン

  • 基盤技術: 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した国産の翻訳エンジンを採用している。これは、TOPPANの既存の音声翻訳サービス「VoiceBiz®」でも利用されているエンジンである。
  • 技術的特徴: NICTのエンジンは、特に日本語を基軸とした翻訳に強みを持つとされる。多くの海外製エンジンが英語を中間言語(ピボット言語)として翻訳するのに対し、NICTのエンジンは日本語から他言語へ直接翻訳する仕組みを採用している場合が多く、これにより日本語特有のニュアンスや文脈をより正確に反映できる可能性がある。技術的には、深層学習に基づくニューラル機械翻訳(NMT)であり、近年ではTransformerアーキテクチャなどが採用されている可能性が高い。

4.3. 翻訳精度と専門用語対応

  • 精度目標: 公表されている具体的な精度目標値(例:BLEUスコア)や第三者評価に関する情報は、提供された資料内には見当たらない。ただし、「日本語から多言語への高い翻訳精度」を持つことが強調されている。NICTのエンジンは、一般的に高精度を目指して開発されており、特定の分野(例:法令・契約、接客業務)向けにチューニングされたモデルも存在する。
  • 専門用語対応: 大阪・関西万博に関連する地名(例:「大屋根リング」「静けさの森」)、会場施設名、イベント名などの固有名詞を含む専門用語が、博覧会協会との連携により約1,200語搭載されている。これにより、会場内での案内や問い合わせといった具体的な場面での翻訳精度と円滑なコミュニケーションの向上が期待される。これらの専門用語はアプリ公開後も順次追加される予定である。関連資料として「EXPO多言語用語集」も公開されている。

4.4. 提供形態

  • プラットフォーム: スマートフォン用アプリケーションとして提供される。
  • 対応OS: iOS(App Store経由)およびAndroid(Google Playストア経由)に対応。
  • その他形態: Webブラウザ版、専用ハードウェア端末、API連携の提供については言及されていない。ただし、関連サービスとしてQRコード経由でアクセスするWebアプリ形式の「EXPOホンヤク Remote」が存在する。

4.5. 機能一覧

  • 主要機能:
    • 音声翻訳(13言語対応、双方向)
    • テキスト翻訳(30言語対応)
  • カメラ(OCR)翻訳: 提供された資料内では、「EXPOホンヤク™」アプリ自体にカメラ翻訳機能が搭載されているという明確な記述はない。TOPPANはAI-OCR技術開発に関与しているが、本アプリへの実装は確認できない。
  • オフライン翻訳: オフラインでの翻訳機能の有無や制約についての明確な情報は提供されていない。データ通信が暗号化されることや、関連サービスのスタンドアロン版の存在から、基本的にはオンライン接続が必要である可能性が高い。
  • UI/UXの特徴: TOPPANグループの既存サービスにおけるUI開発ノウハウが活用されている。シンプルで直感的な操作を目指し、簡単なインストールと利用が可能であることが強調されている。スタッフ向け機能として会場マップが搭載されており、道案内などに利用できる。
  • アクセシビリティ対応: 高齢者や障がい者向けの特別な配慮に関する情報は限定的である。FAQ情報によると、視覚障がいを持つユーザーが単独で操作するための点字案内や音声ガイド機能は備わっておらず、操作にはサポートが必要であるとされている。万博会場全体としてはアクセシビリティセンターが設置されるなど配慮が見られるが、アプリ自体のアクセシビリティ機能は、現時点の情報では十分とは言えない可能性がある。

4.6. インフラストラクチャ

  • システム構成: 詳細なアーキテクチャは公開されていないが、スマートフォンアプリ(クライアント)が、TOPPANが管理するサーバー(NICTエンジンを稼働)に翻訳リクエストを送信するクライアントサーバーモデルと推測される。
  • ネットワーク要件: 会場内のWi-Fiや5Gなどのネットワーク接続が前提となる。大規模な同時アクセスに対応するためのネットワークインフラの安定性と帯域幅が重要となる。
  • サーバー構成とスケーラビリティ: 約2,820万人の来場者、特にピーク時には1日あたり数十万人のアクセスが想定されるため、高いスケーラビリティを持つサーバー構成(クラウドベースなど)が必要不可欠である。具体的な対策は不明だが、負荷分散や冗長化が考慮されていると考えられる。サーバーは日本国内に設置される。

総じて、「EXPOホンヤク™」は、NICTの国産エンジンという強力な技術基盤の上に、万博特有のニーズ(専門用語、スタッフ機能)を組み込んだ特化型サービスと言える。一方で、オフライン機能やカメラ翻訳といった、汎用的な翻訳アプリに見られる一部の機能については、提供情報からは確認できず、アクセシビリティ面での課題も指摘されている。その性能と利便性は、会場のネットワーク環境とサーバーの処理能力に大きく依存する構造となっている。

5. 導入と運用

「EXPOホンヤク™」の成功は、技術的な性能だけでなく、万博会場での効果的な展開と運用体制にかかっている。

5.1. 万博会場での具体的な展開方法

「EXPOホンヤク™」は、万博会場内の様々な場面での多言語コミュニケーションを支援するために導入される。

  • 利用対象者: 全ての来場者が自身のスマートフォンに無料でアプリをダウンロードして利用できる。加えて、約7,000人の会場スタッフ(博覧会協会職員、委託事業者、ボランティアなど)にも専用IDと共にアプリが提供される。公式参加国や民間パビリオン出展者にも利用が推奨されている。
  • 想定利用シナリオ:
    • 来場者同士のコミュニケーション: 異なる言語を話す来場者同士が、アプリを使って会話を楽しむ。
    • 来場者からスタッフへの問い合わせ: 案内所、展示施設、店舗などで、来場者がスタッフに質問したり、情報を求めたりする際に活用される。スタッフは専用機能(定型文、マップ)も活用して対応する。
    • 会場案内: スタッフが来場者に道案内を行う際に、アプリのマップ機能と翻訳機能を併用する。
    • 誘導・アナウンス補助: スタッフが来場者を誘導する際に、多言語アナウンス再生機能を利用する。

これらのシナリオを通じて、会場内での「言葉の壁」を低減し、円滑な運営と来場者体験の向上を目指す。

5.2. ユーザーサポート体制

  • 問い合わせ窓口: アプリに関する問い合わせ先が存在することは示唆されているが、具体的なサポート体制(例:会場内の専用ヘルプデスク、電話サポート、オンラインチャットサポートなど)の詳細は、提供された情報からは不明である。
  • トラブルシューティング: アプリの不具合、操作方法、接続問題などが発生した場合の具体的なサポートフローについても情報は限定的である。一般的な会場案内スタッフがどの程度アプリに関するサポートを提供できるかは不明確である。TOPPANが他のアプリでサポートメールを提供している例はある。

5.3. スタッフ向けトレーニングと利用ガイドライン

  • トレーニング: 約7,000人のスタッフがアプリを利用する予定だが、彼らに対する具体的なトレーニングプログラムやマニュアルの提供に関する情報は、提供された資料内には見当たらない。スタッフはアプリを使って来場者をサポートすることが期待されている。
  • 利用ガイドライン: スタッフ向けの利用ガイドラインや運用ルールの存在についても、明確な情報はない。

スタッフ向けの専用機能(定型文、マップ、アナウンス再生)は、スタッフの業務を標準化し、効率化する上で有効な手段である。しかし、これらの機能を最大限に活用するためには、スタッフがアプリの操作に習熟し、どのような状況でどの機能を使うべきかを理解している必要がある。現状の情報からは、このためのトレーニングやサポート体制がどの程度整備されているかが不明であり、運用上の課題となる可能性がある。同様に、来場者がアプリ利用中に問題に直面した場合のサポート体制の明確化も、ユーザー満足度を維持する上で重要となるだろう。

6. データプライバシーとセキュリティ

「EXPOホンヤク™」は、大量の音声・テキストデータを処理するため、データプライバシーとセキュリティの確保が極めて重要となる。TOPPANホールディングスは、関連するポリシーと対策を講じている。

6.1. 翻訳データの取り扱いポリシー

  • 収集されるデータ:
    • ユーザーコンテンツ: 翻訳のためにユーザーが入力する音声情報およびテキスト情報。
    • 利用情報(自動収集): 端末モデル、OSバージョン、アプリバージョン、利用開始時間、IPアドレス、UUID(匿名化された識別子)など。
    • 個人情報: 基本的には氏名、住所などの個人情報は取得しない方針だが、一部の利用者(スタッフなど)はID/パスワード情報が収集される場合がある。
  • 利用目的:
    • 翻訳サービスの提供。
    • ユーザーサポート。
    • サービス品質の向上(利用状況分析など)。
    • 許可された利用者(スタッフ等)の認証。
  • 第三者提供:
    • 原則として、博覧会協会を除く第三者には提供されない。
    • 例外として、ユーザーの同意がある場合、法令に基づく要請がある場合、公共の利益や生命・財産の保護に必要不可欠な場合、権利侵害を主張する第三者からの正当な要請がある場合、業務委託先(秘密保持契約締結済み)が必要とする場合などが挙げられる。
    • 個人情報を除く利用情報は、博覧会協会に提供される。
  • 保管場所と期間:
    • 全てのデータは日本国内のサーバーに保管され、国外への移転は行われない。
    • データは、万博会期終了(2025年10月13日)後にサーバーから削除される。
  • ユーザーによる削除: ユーザーがアプリ内から直接データを削除する機能はないとされているが、アプリ自体を削除することで利用規約・プライバシーポリシーへの同意を撤回したものとみなされる。データはサービス終了後に削除されるため、永続的に保持されるわけではない。

6.2. 個人情報保護に関する対策

  • 準拠ポリシー: TOPPANグループのプライバシーポリシーおよび、「EXPOホンヤク™」専用のプライバシーポリシー、利用規約に基づいて運用される。
  • ユーザーへの注意喚起: 利用規約において、ユーザーは翻訳のために入力するコンテンツ(ユーザーコンテンツ)に、個人情報やその他禁止される情報(機密情報、不快な表現など)が含まれないよう、自身の責任で確認することが求められている。これは、意図せず機密性の高い情報が翻訳処理のためにサーバーに送信されるリスクをユーザー自身が管理する必要があることを示唆している。

6.3. セキュリティアーキテクチャと脆弱性対策

TOPPANは、一般的な企業レベルのセキュリティ対策を講じている。

  • 技術的対策:
    • 通信の暗号化: データ送信時にはSSL/TLS等による暗号化が行われる。
    • アクセス制御: サーバーへのアクセスは限定された担当者に制限され、情報システムへのアクセス制御が実施される。
    • 不正アクセス・マルウェア対策: 外部からの不正アクセス防止策や、不正ソフトウェアから保護する仕組みが導入されている。
  • 組織的・物理的対策:
    • 個人情報保護管理者の設置、報告連絡体制の整備、定期的な自己点検・内部監査。
    • 従業員への定期的な教育と秘密保持誓約の取得。
    • データを取り扱う区域の管理、入退室管理、機器の持ち出し制限などの物理的措置。
  • 脆弱性対策: 具体的な脆弱性診断や対策の詳細は不明だが、上記の包括的なセキュリティ対策に含まれると考えられる。

表2:EXPOホンヤク™ データプライバシー概要

項目詳細 (提供情報に基づく)
収集データ種別音声/テキスト入力、利用状況(端末情報、IP等)、(一部利用者)ID/PW
主な利用目的翻訳サービス提供、サポート、サービス向上、利用者認証
第三者提供(原則)なし(博覧会協会への非個人情報提供、委託先を除く)
第三者提供(例外)同意、法令要請、公共の利益/安全、権利侵害対応
データ保管場所日本国内サーバー
データ保管期間サービス提供期間中(〜2025年10月13日)
データ削除方針サービス終了後にサーバーから削除。ユーザーによるアプリ削除は同意撤回とみなす。
ユーザーによる制御アプリ内からの直接削除機能なし。個人情報等を入力しないよう注意喚起あり。
主なセキュリティ対策通信暗号化(SSL等)、アクセス制御、不正アクセス/マルウェア対策、組織的・物理的管理策

全体として、標準的なデータ保護・セキュリティ対策が講じられている一方で、サービスの性質上、ユーザーが入力する会話内容そのものがサーバーで処理される点には留意が必要である。データが国内に保管され、会期終了後に削除される点は、プライバシー懸念を一定程度緩和する要素と言える。しかし、ユーザー自身が入力内容に注意を払うことが、プライバシー保護の重要な一部となっている構造である。

7. 戦略的位置づけと期待される効果

EXPOホンヤク™」は、単なる翻訳ツールを超え、大阪・関西万博の基本計画や関連戦略において重要な戦略的位置づけを持つ。

7.1. 万博の基本計画・関連戦略における位置づけ

  • 「デジタル万博」の中核要素: 本サービスは、「未来社会ショーケース事業」の一部である「デジタル万博・自動翻訳システム」の主要コンポーネントである。これは、万博会場全体で先端ICTを活用し、「Society 5.0実現型会場」を目指すという万博の基本方針に合致する。
  • 万博テーマの具現化: 「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマ、特にサブテーマ「いのちをつなぐ (Connecting Lives)」を、言語の壁を越えたコミュニケーションの実現を通じて具体的に示す役割を担う。
  • 「未来社会の実験場」の実践: 「People’s Living Lab」というコンセプトの下、最先端の国産翻訳技術(NICTエンジン)を大規模な実環境で展開・実証する場となる。
  • 持続可能な開発目標(SDGs)への貢献: 多様な人々が円滑に交流できる環境を提供することは、SDGsが目指す包摂的な社会の実現に貢献しうる。

7.2. 来場者体験向上への貢献

  • コミュニケーション障壁の低減: 外国語話者や聴覚障がいを持つ可能性のある来場者にとって、スタッフへの問い合わせ、情報収集、他の来場者との交流が容易になることで、万博体験全体の満足度向上が期待される。
  • 回遊性・消費行動への影響: 言語の不安が軽減されることで、来場者はより積極的に会場内を移動し、展示やイベント、物販・飲食に関与しやすくなる可能性がある。

7.3. 万博テーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」との関連性

  • 共生社会の実現: 言葉の壁を技術で乗り越える体験を提供することで、多様な背景を持つ人々が共生し、協働する未来社会の可能性を示す。
  • 技術革新のショーケース: AIを活用した高度な自動翻訳技術を実体験できる場を提供し、技術が人々の生活や社会を豊かにする未来像を示す。

7.4. 国際交流促進と日本の技術力アピール

  • グローバルな交流の促進: 世界中から集まる人々が、言語を気にせず交流できる環境を提供することで、国際相互理解を深める一助となる。
  • 日本の技術力の発信: 特に、NICT開発の国産翻訳エンジンを活用することで、AI・自然言語処理分野における日本の技術水準の高さを国内外に示す絶好の機会となる。

7.5. 想定されるKPI(重要業績評価指標)

提供された資料からは、「EXPOホンヤク™」に関する具体的なKPI(例:ダウンロード数目標、アクティブユーザー率、翻訳成功率、ユーザー満足度スコアなど)は明記されていない。しかし、間接的な目標としては以下の点が推測される。

  • スタッフへの導入目標: 約7,000IDの会場スタッフへのアプリ提供は、具体的な導入目標数と言える。
  • 定性的な目標: 会場内での円滑な多言語コミュニケーションの実現、来場者満足度の向上、言語関連のトラブルや問い合わせ件数の削減などが、目標として設定されている可能性が高い。

「EXPOホンヤク™」は、単なる機能提供に留まらず、万博の理念を体現し、日本の技術力を示し、来場者体験を向上させるという多層的な戦略的価値を持つプロジェクトである。その成否は、技術的な側面だけでなく、万博全体の印象や評価にも影響を与える可能性がある。ただし、その成功を測るための具体的な公開指標が不足している点は、外部からの評価を難しくしている側面もある。

 

「EXPOホンヤク™」と他の商用翻訳サービス(Google翻訳、DeepL、Pocketalk)とを比較分析

比較の画像

EXPOホンヤク™」の特性と競争力を評価するため、既存の主要な商用翻訳サービスや、過去の大規模イベントでの翻訳ソリューションと比較分析を行う。

1. 主要商用翻訳サービスとの比較

Google翻訳、DeepL、Pocketalkといった広く利用されている商用翻訳サービスと比較すると、「EXPOホンヤク™」には独自の特徴と、いくつかの機能的な差異が見られる。

表3:主要翻訳サービスとの機能比較概要

機能/特徴EXPOホンヤク™Google翻訳 (Typical)DeepL (Typical)Pocketalk (Typical)
提供形態スマートフォンアプリ (iOS/Android)アプリ, Webアプリ, Web, API専用ハードウェア端末
コスト(利用者)無料無料 (一部機能有料)無料 (一部機能/API有料)端末購入費/通信プラン費
対応言語数(合計)30100以上30程度80以上
音声入出力対応言語13多数多数多数
オフライン翻訳不明/未確認あり (要ダウンロード)限定的/なしあり (一部モデル/言語)
カメラ(OCR)翻訳不明/未確認あり (リアルタイム/写真)限定的/なしあり (一部モデル)
専門用語対応◎ (万博用語 約1,200語搭載)△ (一般的)△ (一般的)△ (一般的、カスタム辞書機能あり)
翻訳エンジン特徴NICT国産エンジン (日本語重視)Google NMT (Transformer)DeepL NMT (Transformer)クラウド上の複数エンジン利用
スタッフ専用機能あり (定型文, マップ等)なしなしなし
アクセシビリティ△ (視覚障がい者向け機能不足)〇 (OS標準機能連携)〇 (OS標準機能連携)△ (ハードウェア依存)
  • 機能面: Google翻訳やPocketalkは、オフライン翻訳やカメラ翻訳といった、多様な利用シーンに対応する機能を備えている点で、「EXPOホンヤク™」(現時点での確認情報に基づく)よりも汎用性が高い。対応言語数や音声対応言語数もGoogle翻訳やPocketalkの方が多い傾向にある。
  • 精度面: 「EXPOホンヤク™」はNICTエンジンにより日本語関連の翻訳精度が高い可能性がある。DeepLは特に欧州言語間の自然な翻訳で評価が高い。Google翻訳は対応言語の広さが強みだが、精度は言語ペアや文脈により変動する。精度評価は利用するテキストの性質(専門性、口語度など)に大きく依存する。「EXPOホンヤク™」の万博専門用語搭載は、会場内での精度向上に寄与する可能性がある。
  • 使いやすさ: 各サービスともUI/UXには注力しているが、「EXPOホンヤク™」はアクセシビリティ面での課題が指摘されている。Pocketalkは専用端末であるため、スマートフォン操作に不慣れな層にはシンプルに感じられる可能性がある。
  • コスト: 「EXPOホンヤク™」は利用者無料であり、これは大きな利点である。

2. 他の国際的大規模イベントでの翻訳ソリューションとの比較

過去の万博やオリンピック等で採用された翻訳ソリューションに関する具体的な情報は、提供された資料内では限定的である。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、NICTの多言語音声翻訳技術が活用された可能性が示唆されている。

しかし、「EXPOホンヤク™」のように、特定のイベントに特化した公式アプリとして、専門用語を大量に搭載し、全来場者と多数のスタッフに無料で提供・推奨するという形態は、比較的新しい、あるいはより大規模で体系的なアプローチである可能性がある。過去のイベントでの経験や課題(例:コミュニケーションの困難)を踏まえ、より統合されたソリューションを目指した結果と考えられる。

3. 「EXPOホンヤク™」独自の強みと弱み

  • 強み:
    • 公式性と無料提供: 万博公式サービスとしての信頼性と、全参加者が無料で利用できるアクセスの容易さ。
    • 日本語翻訳への最適化: NICTエンジンによる、開催国言語である日本語との翻訳における潜在的な高精度。
    • 万博特化のカスタマイズ: 会場固有の専門用語の搭載と、スタッフ向け専用機能による運用効率の向上。
    • 国内技術のショーケース: 日本のAI・翻訳技術力を示すプラットフォームとしての役割。
  • 弱み(提供情報に基づく):
    • 機能の限定性: 確認されている範囲では、オフライン翻訳やカメラ翻訳機能が搭載されていない可能性がある。
    • 音声対応言語の制限: 音声入出力が可能な言語が13言語に限定されている。
    • ネットワーク依存性: オンライン接続が必須である可能性が高く、会場のネットワーク環境に性能が左右される。
    • アクセシビリティの課題: 特定の障がいを持つユーザーへの配慮が不十分である可能性。

この比較分析から、「EXPOホンヤク™」は汎用性や機能の網羅性で商用アプリに劣る部分があるものの、開催地(日本)と言語環境(日本語中心)、イベント(万博)という特定のコンテキストに最適化された、特化型のソリューションとして設計されていることがわかる。その戦略は、最大の利用者層である日本人および日本語とのコミュニケーションが必要な外国人来場者に対して、可能な限り高品質な翻訳体験を提供することに重点を置いていると考えられる。

「EXPOホンヤク™」の潜在的な課題とリスク

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EXPOホンヤク™」の導入は多くの利点をもたらす可能性がある一方で、その運用には技術的、運用的、その他の側面でいくつかの潜在的な課題とリスクが伴う。

1. 技術的課題

  • 翻訳精度の限界:
    • ニュアンス・文脈: 機械翻訳全般の課題として、文化的な背景、皮肉、ユーモア、感情といったニュアンスの翻訳は依然として難しい。誤解を招く可能性がある。
    • 方言・スラング・専門分野: 対応言語内の方言や若者言葉(スラング)、特定の専門分野(例:医療、先端科学、特定の文化領域)の用語に対する精度は、搭載された万博用語以外では限定的である可能性がある。
    • 長文・複雑な構文: 長い文章や複雑な構造を持つ文では、訳抜けや誤訳のリスクが高まる傾向がある。
  • リアルタイム性: 翻訳処理にかかる時間(レイテンシ)が長くなると、対面での自然な会話の流れが阻害される。特にピーク時のサーバー負荷増大により、レスポンスが悪化するリスクがある。
  • 音声認識精度: 万博会場のような騒がしい環境下では、周囲のノイズによって音声認識の精度が低下し、誤った入力に基づく不正確な翻訳が生成される可能性がある。
  • オフライン機能の制約: 提供情報からはオフライン機能の搭載が確認できず、ネットワーク接続が不安定な場所や、通信障害発生時にはサービスが利用できなくなるリスクがある。これは、特に緊急時や混雑エリアでの情報伝達において問題となりうる。

2. 運用的課題

  • 大規模同時アクセスへの対応: 万博期間中、特にピーク日や時間帯には、数十万人規模のユーザーが同時にアプリを利用する可能性がある。これによるサーバーへの極端な負荷増大は、システムダウンやレスポンス遅延を引き起こすリスクがある。十分なスケーラビリティと負荷分散対策が不可欠である。
  • ネットワークインフラの安定性: アプリの性能は、万博会場全体のWi-Fiやモバイルネットワークの品質と安定性に完全に依存する。ネットワークインフラに問題が発生した場合、アプリは機能不全に陥る。
  • デバイスの充電問題: スマートフォンアプリであるため、ユーザーのデバイスのバッテリー残量が利用を制限する。長時間の会場滞在中にバッテリー切れを起こすユーザーが多数発生する可能性がある。
  • ユーザーのITリテラシー差: 来場者の年齢層や出身国は多様であり、スマートフォンの操作やアプリの利用に慣れていないユーザーも相当数存在すると考えられる。特にシニア層や特定の地域からの来場者にとって、アプリのインストールや操作が障壁となる可能性がある。アクセシビリティの問題もこの課題を増幅させる。
  • サポート体制の負荷: アプリに関する問い合わせやトラブルシューティングの要求が多数発生した場合、既存のサポート体制(詳細不明)では対応しきれなくなる可能性がある。特にスタッフへのトレーニングが不十分な場合、現場での混乱が生じかねない。

3. その他の課題とリスク

  • 文化的な翻訳限界: 言葉の表面的な意味は翻訳できても、その背景にある文化的な慣習やタブー、敬意の表現などを正確に伝えることは困難である。不適切な翻訳が文化的な摩擦を引き起こす可能性もゼロではない。
  • プライバシー懸念への反応: 音声やテキストデータがサーバーで処理されることに対し、プライバシー侵害を懸念するユーザーが存在する可能性がある。特に、個人情報保護に関する意識が高い国からの来場者は、データ利用ポリシーに敏感に反応するかもしれない。
  • 予期せぬ不具合: 大規模なソフトウェアシステムには、テスト段階では発見されなかったバグや不具合が、実際の運用環境で顕在化するリスクが常につきまとう。重要な場面での機能停止は、大きな混乱を招く可能性がある。

これらの課題とリスクに対処するためには、事前の綿密な技術検証とストレステスト、堅牢なインフラ設計、明確な運用・サポート計画、ユーザーへの適切な情報提供(機能限界やプライバシーポリシーに関する透明性)、そして迅速な問題対応体制の構築が不可欠である。特に、ネットワークインフラの確保と、多様なユーザー層を想定したサポート体制の充実は、成功のための重要な要素となるだろう。

「EXPOホンヤク™」の将来展望とレガシー

EXPOホンヤク™」プロジェクトは、大阪・関西万博の会期中に限定されたサービスであるが、その開発と運用から得られる成果は、万博終了後も様々な形で活用され、将来の技術やイベント運営に影響を与える可能性がある。

1. 万博終了後の技術・システムの活用可能性

  • 他イベントへの展開: 「EXPOホンヤク™」で実証された技術や運用ノウハウは、将来の国際的な大規模イベント(他の万博、オリンピック・パラリンピック、大規模国際会議など)における多言語対応ソリューションのモデルケースとなりうる。特に、イベント特有の専門用語を組み込むアプローチや、スタッフ向け機能を統合するコンセプトは、他のイベントでも応用可能である。
  • 商用サービスへのフィードバック: TOPPANホールディングスは、本プロジェクトで得た知見や、実環境での利用を通じて改良された可能性のあるUI/UX設計、エンジン連携技術などを、自社の商用音声翻訳サービス(例:「VoiceBiz®」)の強化に活用することが考えられる。
  • NICTエンジンの高度化: 万博期間中に収集される(プライバシーに配慮した形での)大量かつ多様な実利用データは、NICTの翻訳エンジンのさらなる精度向上や、対応言語・機能の拡充に向けた研究開発に貢献する可能性がある。これは、日本の自然言語処理技術全体の発展にも寄与しうる。

2. 知見・データのレガシー

  • 大規模実証データ: 数百万人に及ぶ可能性のあるユーザーによる実環境での利用データは、「未来社会の実験場」としての万博のコンセプトを体現する貴重な成果物となる。どのような言語ペアが多く使われたか、どのような場面で翻訳が求められたか、どのようなエラーが発生しやすいか、ネットワーク負荷の変動など、研究室レベルでは得難い実践的なデータが得られる。
  • 運用ノウハウの蓄積: 大規模イベントにおける多言語翻訳アプリの導入計画、インフラ要件定義、スタッフへの展開方法、ユーザーサポート体制の構築と運用、プライバシー・セキュリティ管理などに関する実践的なノウハウが蓄積される。これらの教訓は、将来同様のプロジェクトを計画する際の重要な参考資料となる。
  • 課題の明確化: 運用を通じて明らかになった技術的・運用的な課題(例:騒音下での音声認識、ネットワーク安定性の重要性、アクセシビリティ対応の必要性など)は、次世代の翻訳システムやイベント運営における改善点を具体的に示唆する。

「EXPOホンヤク™」アプリ自体は会期終了と共にその役割を終えるかもしれないが、このプロジェクトは単なる一時的なツール提供に留まらない。それは、日本の技術力を結集した大規模な社会実証実験であり、そこから得られる技術的進歩、データ、そして運用上の教訓こそが、未来のコミュニケーション技術やイベント運営に残される真のレガシーとなる可能性を秘めている。このレガシーを最大限に活かすためには、万博終了後のデータ分析と知見の共有が重要となるだろう。

結論

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本調査分析の結果、「EXPOホンヤク™」は2025年大阪・関西万博において、言語障壁の低減と国際交流の促進、そして日本の先進技術を世界に示す上で、極めて重要な役割を担う公式多言語翻訳サービスであると評価できる。

TOPPANホールディングスが開発し、NICTの国産翻訳エンジンを搭載した本アプリは、無料で提供され、30言語に対応(うち13言語は音声対応)し、約1,200語の万博専門用語を組み込むなど、イベントの特性に合わせた最適化が図られている。スタッフ向け専用機能の提供も、円滑な会場運営への貢献が期待される。これらの点は、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」、特に「いのちをつなぐ」というサブテーマを具現化する上で大きな強みとなる。

しかしながら、その成功にはいくつかの重要な条件と課題が伴う。最大の懸念事項は、大規模な同時アクセスが見込まれる中でのネットワークインフラの安定性と、アプリ自体のサーバー処理能力である。提供情報からはオフライン機能の搭載が確認できず、ネットワークへの依存度が高い構造は、潜在的なリスク要因となる。また、翻訳精度(特に文化的ニュアンスや複雑な会話)、音声認識の精度(騒音環境下)、そしてアクセシビリティ対応の限界も、ユーザー体験に影響を与えうる要素である。さらに、多様なITリテラシーを持つ来場者や多数のスタッフに対する効果的なサポートとトレーニング体制の整備も、その実効性を左右する鍵となる。

総合的に評価すると、「EXPOホンヤク™」の成功可能性は、これらの技術的・運用的課題をどの程度克服できるかに大きく依存する。もし安定的に稼働し、期待される翻訳品質を提供できれば、万博の来場者体験を大幅に向上させ、国際交流を促進し、日本の技術力を効果的にアピールすることに大きく貢献するだろう。一方で、インフラの問題やサポート体制の不備が露呈した場合、ユーザーの不満を招き、万博全体の評価にも影響を与えかねない。

本プロジェクトは、「未来社会の実験場」として、今後の大規模イベントにおけるデジタルコミュニケーション支援のあり方や、AI翻訳技術の実社会応用に関する貴重な知見を提供する。その成果と教訓は、万博終了後も、技術開発やイベント運営の分野において重要なレガシーとなることが期待される。

 

■監修・記事配信:おひとり様TV

出典・参考・引用:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会HP

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